第49回『いったい何が…?『DEIやめます』宣言相次ぐ米企業と逆差別問題』
2025年01月23日
アメリカで広がる「DEI停止」の動き
ここ数年、企業や大学などで「DEI (Diversity, Equity, Inclusion)」が積極的に推進されてきました。例えば、女性役員の比率や人種・ジェンダーなどの多様性を数値目標に掲げ、外部機関の評価を受けながら取り組む企業がここ数年増加していました。
ところが最近、アメリカでは「DEIを止めよう」「やりすぎだ」という動きが強まっています。理由としては、
- 逆差別 につながってしまうケースがある
- 人種や性別の多様性の数値目標を上げることばかりが目的になり、本質的な公平性が置き去りになる
- 保守的な政治の流れによってDEI推進に反対する声が大きくなっている
などが挙げられます。たとえばアメリカでは大学入試での一部のマイノリティ人種を優遇する差別是正措置が違憲と判断されたり、ナスダックの多様性に関する上場基準承認が無効であるという判決が出たり、企業も慎重にならざるを得ない状況が起こっています。
数字だけを追いかけるデメリット
DEIの取り組みは「多様なバックグラウンドを認め合おう」という本来の目的があるはず。でも「女性役員を○%に増やす」「マイノリティを一定数採用する」といった 数値目標 が先行すると、
- “逆差別” の声を招いてしまう
- 本来の目的である “人を大切にする” という価値観が希薄になる
といった問題が起こりやすいんです。確かに数字はわかりやすくて、企業の努力を評価しやすい指標ではあります。でも、そればかりにこだわると、結局は「スコアのための採用・登用」になりがち。これがアメリカでの反発につながっていると考えられます。
それでも「DEI」はなぜ大切なのか?

では、DEIが全部悪いのかといえば、そういうわけでもありません。もともとは
- 黒人をはじめとする人種差別をなくそう
- 女性の活躍を妨げる慣習を変えよう
- 誰もが居心地よく働けるようにしよう
という大切な思いがありました。この「一人ひとりを尊重する」「多様な価値観を否定しない」という姿勢は、組織が新しいアイデアを生み出すうえでも重要です。
実際、「数値目標はやめるけれど、社内の多様性や包摂性は今後も続けたい」という方針を出している企業も多くあります。表面的な数値目標ではなく、本質的なところで “人を大切にする” 取り組みにシフトしようとしている企業もあるのです。
日本への影響は?
日本では、アメリカほど強い反発はまだ起きていないものの、海外拠点を持つ企業やグローバルに事業展開をしている企業はアメリカの動向に左右されています。また最近では、日本企業でも「女性取締役比率○%」など数値目標を掲げるケースがあります。
日本でも数年後アメリカと同じように「逆差別だ」「数字ばかり先行してる」という批判を受ける可能性もゼロではありませんよね。だからこそ、最初から “数字頼み” の施策にならないように意識する必要があると思います。
大切なのは「人を人として大切にする」こと
結局のところ、DEIが目指すのは「人それぞれのバックグラウンドや考え方を尊重し合う」文化づくりです。異なる意見や価値観を持っているからといって、すぐに否定するのではなく「なるほど、そういう考え方もあるんだね」と受け止めるゆとりが大事です。
数値目標はあくまで結果としての指標。組織としては、日常のコミュニケーションや制度を見直して、「誰もが安心して意見を言える」「個性を発揮できる」環境をつくることこそが、本当の意味でのDEI推進につながるはずです。