第77回『AIファシリテーター vs 人間ファシリテーター』――AI時代のリスキリング
2026年02月26日
「リスキリングが重要だ」と言われて久しくなりました。DX、生成AI、データサイエンス……たしかに、どれも大切です。ただ私は、それと同じくらい、いや、もしかするとそれ以上に重要になるスキルがあると考えています。それが「組織マネジメント」、その中核にあるファシリテーションです。
いま私たちは、前例のないテーマに次々と向き合っています。市場も技術も価値観も、変化のスピードが速い。そうした状況では、A案かB案かを選ぶだけの思考では、すぐに限界がきます。どちらを選んでもしっくりこない。そんな場面が増えているのではないでしょうか。
必要なのは、AでもBでもない「第三案」を創発する力です。そして第三案は、ひとりの優秀なリーダーの頭の中から生まれるものではありません。異なる立場、異なる経験、異なる専門性を持つ多様な人たちが、互いに影響を与え合う中で立ち上がってくるものです。

その化学反応を意図的につくる技術が、ファシリテーションです。
ファシリテーションというと、「会議をうまく回すこと」と思われがちです。しかし本質はそこではありません。「コミュニケーションの流れを作ること」です。安心して話せる空気を作ること。立場の違いから生まれる緊張を、建設的な対話に変換すること。発言の多い人の意見だけでなく、まだ言語化されていない考えにも光を当てること。場を整え、人と人、アイデアとアイデアのあいだに橋を架けることです。
ここに大きな可能性があります。
一方で、日常の会議ファシリテーションは、確実にAI化が進むでしょう。議事録作成はすでに自動化が当たり前になりつつあります。今後は、アジェンダ整理、時間管理、発言機会の均等化、さらには発言量や感情の傾向分析まで、AIが担う場面が増えていくはずです。特にオンライン会議では、発言者の区別もしやすく、AIファシリテーションツールが生まれたら自然に組み込まれやすいでしょう。
私は、この流れは歓迎すべきだと思っています。会議ファシリテーションは効果が大きいものであるのに、まだ広く使われていないからです。AIによって最低限の質が担保されれば、組織全体の生産性は底上げされるでしょう。
そして、人間のファシリテーターはより本質的な役割に集中できるようになります。
その本質とは何か。それは、人と人がつながることで、新しい価値を生み出すことです。場の空気を感じ取り、言葉の奥にある意図を汲み取り、ときに踏み込んだ問いを投げかける。対立の裏にある願いを見つけ、対話を通じて意味を再構築、新たな価値を創発する。こうした営みは、まだAIには完全には代替できません。
リスキリングとは、単にスキルを追加インストールすることではないはずです。自分の価値の置きどころを、未来に合わせて再設計することが重要。テクノロジーに任せられる部分は任せる。そのうえで、人にしかできない領域を磨き続ける。
ファシリテーションを学ぶことは、まさにその実践です。
正解を提示する人になるのではなく、正解をともに創る人になる。人を動かすのではなく、人が動く組織を育てる。AI時代におけるリスキリングの核心は、ここにあるのではないでしょうか。