第78回『AI時代に生き残れるか?新しいリスキリング「対話の技術」』
2026年03月11日
多くの仕事がAIに置き換わったり、新しいエネルギーやさまざまな技術の進化によって、これからますます求められるスキルは変化していきます。これまで能力が高かったはずの人たちの能力の需要が下がってきたり、大きな作業時間や人件費が必要だった仕事が機械に置き換わったりと、変化は続いています。
そしてこの進化の中だからこそ必要性が高まっていくスキルで、かつ今は使いこなせる人が圧倒的に少ないものがあります。それが「対話」のスキルです。
たとえば、情報量が多く、個人の情報の発信・受信のコストが下がっている現在の環境では、さまざまな意見、極端な声、マイノリティの声などが場に上がるようになりました。過去であれば打ち消されてしまっていたような声です。

そして、何が真実なのか分からないフェイク動画やフェイクニュースのようなものも渦巻いています。過去は「これが真実です」「多数決でこれに決まりました」と言われるものに従うしかなかった状況が、小さな声も嘘も本当も、すべてごちゃ混ぜになっています。
そんな環境の中でも、個人として、組織として、社会として、選択をし続けなくてはなりません。個人レベルで言えば「これが健康にいいから食べた方がいい」という人もいれば、「それは健康に悪いから食べてはだめだ」という人もいる。社会の中では、例えば「税金や社会保障をどうすべきか」といったことについて、さまざまな声を上げる人たちがいる中で、決定し、動かしていかなければいけません。
こうした困りごとは、技術の進歩により今以上に増えていくでしょう。そしてこれはAIを参考にすることはできるかもしれませんが、委ねることはできません。なぜなら、感情を扱い、意思決定を伴うからです。
そしてこれを扱うことができる人間に求められるスキルが「対話」のスキルです。対話では、多様な声や対立も、ただそのまま「違い」として扱うことができます。そして違いを、ただ違ってあたりまえのものとして受け入れ合うことから、本当に大切なものは何か、違いの先にある思いを一つにして選択できるものは何かを見つけ出すことができます。
前回、ファシリテーションについてお話ししました。会議を設計し、議論を整理し、結論へ導く力は、これからも重要です。ただし、会議ファシリテーションと対話は、似ているようで本質が異なります。
会議ファシリテーションは、議事を進行し、論点を整理し、合意形成を図る営みです。いわば「思考を扱う技術」です。
一方、対話は「一人ひとりの人を人として扱う営み」です。
対話では、言葉として発せられた意見だけを扱うのではありません。表情の変化、沈黙の長さ、声のトーンの揺れ、微妙な違和感。つまり、会議では見過ごされがちな非言語のメッセージに目を向けます。
「本当はどう思っているのか」
「なぜそこに引っかかっているのか」
「その怒りや不安の奥には何があるのか」
こうした問いに丁寧に向き合うのが、対話です。
もちろん、それは相手を追い詰めることではありません。受け入れ合える場の中でこそ、対話は成立します。安心して本音を出せる関係性があるからこそ、感情の奥にある願いや価値観が共有される。そして、その共有があるからこそ、創発が起こるのです。
新規事業や新しい挑戦においても、本当に難しいのは「正解を見つけること」ではありません。誰も経験したことのない環境で選択をすることです。A案かB案かではなく、「なぜ私たちはこれをやるのか」という根幹に触れること。そのプロセスの中から、AでもBでもない第三案が立ち上がります。
しかし、この分野は社会全体で圧倒的に人材が足りていません。
対話には、やり方や作法があります。聞き方、問いの立て方、沈黙の扱い方、感情の言語化の支援。これらは訓練すれば一定レベルまで身につきます。しかし、学ぶ機会は多くありません。結果として、多くの職場では「会議」はあっても、「対話」は起きていないのが現実です。
私は、対話のスキルは、将来的に「PCが使える」ことと同じくらい、あたりまえのスキルになってほしいと願っています。かつては一部の専門職だけのものだったPCスキルが、いまや誰もが普通に使えるようになったように、対話もまた、すべてのビジネスパーソンに求められる素養になってほしいと思います。
今はまだ、その必要性に十分気づかれていない。だからこそ、いま先んじてリスキリングとして身につけてほしいのです。そして、自ら実践し、周囲に伝播させていく側に回ってほしい。
これからの5年で価値が上がるのは、テクノロジーを使いこなす人だけではありません。人と人のあいだに意味を生み出せる人です。その力こそが、AI時代における人間の最も重要な役割になっていくでしょう。
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