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第11回『なぜ不祥事は無くならないのか?企業を救うカギは心理的安全性にあった』

2023年08月10日

最近、企業の不祥事や企業が隠蔽してきた犯罪がニュースになっていますが、企業の事件・事故というのは、実は非常にチームビルディングと深い関係があります。チームがうまく機能している状態の場合は、組織の中の問題が後から出てくるのではなく、予兆の段階からチームの中で懸念を話し合うことができます。

これはチームビルディングの重要ワードである「心理的安全性」と深く関わっています。メンバーがお互いの思っていることを「こんなことを言ったら周りからどう思われるか分からない」「上司から怒られる」というような不安を感じることなく、思ったことを発言し、その発言を受け入れ合えるのが心理的安全性の高い場です。

心理的安全性の高い場を作るのは、なかなかそう簡単ではありません。特に、昔ながらのピラミッド型組織の場合は上司の言うことは絶対であり、 「良くないのではないか」と口に出すのも難しいという心理的安全性の低い状態が、その職場の当たり前になってしまっています。

企業の重大事故や事件は、ニュースで知ると突然発生したかのように感じられますが、実際には突然起こる訳ではありません。前から誰かが知っていたことです。事故を未然に防ぐために、多くの企業取り入れていている考え方があります。

過去に保険会社が研究したもので「ハインリッヒの法則」といいます。死亡事故のような1件の重大事故の背景には軽度な事故(インシデント)が29件あり、30件の事故のうちの1件が重大事故につながるというものです。さらにその背景には、300件のヒヤリハット(未然に防げたちょっとしたミス)があります。

例えば、手に持っていたハンマーを自分の足の上に落としてケガをした、テーブルの端に置いてあったグラスを落として割ってしまった、程度の軽微なヒヤリハットが300件あると、確率的には29件の軽度な事故があり、1件の重大な事故がある。1件の重大事故の背景には、300件の予兆があるということです。

この「ヒヤリハット」を心理的安全性の低い組織では口に出すことができないという点が問題です。重大事故予防のために多くの企業ではヒヤリハットの報告義務を設けています。しかし一向に報告が上がらない。重大事故防止のためにヒヤリハットを引き出そうとしていますがなかなかうまくいっていません。なぜでしょうか。それは、ヒヤリハットを言ったところで、本人には全くいいことがないからです。

上司から怒られる、周りから冷ややかな目で見られる、またお前かと言われる・・・
ヒヤリハットを伝えたところで、嫌な思いをするリスクはあっても自分にとっては給料が上がる訳でもないし 褒められるわけでもない。つまりメリットがないのです。

一方で、心理的安全性の高い組織では、みんながヒヤリハットを報告します。ちょっとした事故やヒヤリハットを共有することが良いことであるという組織文化があるのです。怒られたり、気づいたことを共有することで非難されたりすることが心理的安全性の高い組織では起こりません。

ミスを受け入れ合い、報告しても責められることがないという感覚を全員が共有しているから安心して言えるのです。さらに、心理的安全性の高い組織ではお互いの知見、経験したこと(良いこともそうでないことも)を掛け合わせ、交ぜ合わせ、そこから新たな気づき、学びに変えていく力があります。

心理的安全性の高い組織では300件のヒヤリハットを非常に見つけやすく、重大事故を減らすことができるだけでなく、新しい気づきや学びを生み出すのでヒヤリハットをきっかけにイノベーションを起こし、新しい何かを生み出すことすらできます。

心理的安全性の研究で有名なエイミー・エドモンドソンによると、良いチームはミスが少ないはずだと思ったら、実は良いチームはミスの件数が多かったそうです。なぜなら良いチームではお互いにミスを言い合える文化があり、報告し合うことが頻繁に起こっていたからです。

心理的安全性の低い組織、良くないチームでも同様にミスは起こっているけれど、ミスとして報告されている件数は少なかった。なぜなら報告したら怒られる不安があるからです。

企業の不祥事がニュースになると、「そんなの誰か気づかなかったの?」「誰が止められなかったの?」「事前に防げなかったの?」と感じますが、言えないし、言わないのです。それが心理的安全性の低い組織では当たり前です。

さてここで、一つ重要な点があります。心理的安全性が低い、と言うと悪いことのようですが、心理的安全性が低いのがむしろ組織の普通の状態であり、心理的安全性の高い状態の方が稀である、ということです。

普通の社会の中で生きていくなかでは、自分の安全を守らなくてはなりません。余計なことを言ってクビになる人はいるけれど、何も言わないでクビになる人はいない、と言われます。 自分が余計なことを言ってどう思われるか気になる、自分の安全を守るためには余計なことは言わない、というのが普通の感覚で、何でもどこでも言える方が稀なのです。

心理的安全性の高い組織に変えるためには、高い意識をもって日々の取り組みを地道に繰り返していくしかありません。余計なことを言うリスクはあるけれど言わなければメリットしかないという状況のなかで、「心理的安全性を高めていきましょう」「事件、事故を減らしていきましょう」といくら呼び掛けても、一人ひとりが自分の身の安全を守っている状態を変えることは容易ではないのです。

「心理的安全性の高い組織にするのは大変なことなのだ」と知ったうえで、それでも頑張ってほしいなと思います。

※心理的安全性の高い組織をつくるための具体的な取り組みについては今後動画講座などでもご紹介していく予定です。また体験と対話による組織づくりプログラムも実施しています。

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