第72回『PLURALITY型意思決定とは?企業で実践する方法』
2025年12月17日
オードリー・タン氏の働きにより、台湾で実装され始めた新しい社会運営の枠組みを企業に当てはめると何が見えてくるでしょうか。実はここに、現代の企業が直面する複雑な課題を乗り越えるための非常に大きなヒントがあると感じています。
今の企業環境は、政治が直面している社会環境と同じく「正解のない課題」が増えています。テクノロジー、市場、社会環境などの変化が速く、部署や専門性などによって立場も事情も価値観も異なります。同じ事象でも、見る角度によって異なる「意味」がつけられるため、かつてのように「経験値の高い上司が正解を知っている」前提で組織運営をすることが最適な選択につながりにくくなっています。いまは「誰も知らない答えをみんなで見つける」ことが求められます。

こうした複雑な環境で必要なのは、トップダウンによる強い指示でも、多数派が決定権を持ってしまう投票のような仕組みでもなく、「多様な視点を土台に、相互に尊重し合いながら、対話によって最適解を生み出していく仕組み」です。
オードリー・タン氏は国という非常に大きな単位で実践に取り組みました。企業はより規模も小さく、より導入しやすいでしょう。
まず一つは意見を交わし合う、対話の場を持つことです。これはオンラインでも実施することができます。これにより、A案とB案の単純な対立ではなく、両案を超えた全く新しい視座のC案が生まれてきます。
第二に、少人数での対話を重ね、メンバーを入れ替えながら繋げていくことです。話しやすい人数でお互いの前提や価値観の違いを丁寧に扱う時間を持つことが重要です。対話型アプローチで、結論をゴールにするのではなく、価値観や問題意識の深層を共有することが目的になります。
第三に、デジタルの活用です。オンライン会議の仕組みやAI要約ツールなどを使えば、場所が離れていても話し合いや共有ができます。組織全体で対話を起こすにはつながりがとても重要です。そのつながりを生み出す便利なツールとしてデジタル、AIツールなどを効果的に使うことができます。
ここで強調したいのは、これは「企業の民主化」ではないということです。多くの企業はヒエラルキー構造を持ち、最終責任は経営が負う仕組みになっていて、民主的には作られていません。これは、意思決定のプロセスに「多元性を扱う仕組み」を入れることであり、個人の能力では解決できないような複雑な課題に対する「最適解」を導き出す能力を組織として高めるものです。
チームビルディングジャパンが行っている研修や組織開発の支援も、これと同じ「創発を起こす仕組みづくり」です。「小さな会社なら出来るけれど大きな会社だとできないね」と感じられる方も多くいますが、国家規模で導入し、取り組んでいる国があることは私たちに希望を見せてくれました。国家に比べたらむしろ企業は規模が小さく、実験と改善のスピードが速い分、効果が出やすいと言えるでしょう。
これからより多くのみなさまとともに、この新しい組織の形を実現していきたいと思います。組織の選択やコミュニケーションに課題を感じている方がいらっしゃれば、いつでも声をかけてください。一緒に、新しい組織の選択肢をつくっていきましょう。