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第89回『コミュニケーションデザインの研究と実践(6)“教える”と“学べなく”なる?』

2018年08月23日

チームビルディングの話をしよう
2015年4月から始まった連載コラム「チームビルディングの話をしよう」では、代表河村がチームビルディングを切り口にさまざまなテーマでいろいろな人と話し合った様子をお届けしています。
今回からは大塚裕子(ひろねー)さんをお招きして対談をお届けします。
 
大塚さんは現在、社会福祉法人喜慈会
子中保育園で副園長をされています。
http://konakahoikuen.com/
 
研究者の視点を持って保育園運営をされる大塚さん。
「コミュニケーションデザインの研究と実践」をテーマに、
複数回にわたってお話を伺っていきます。
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目次

 

 

河村 甚(写真、以下じん)
チームビルディングジャパンの研修は、一つの正解を教え込ませる研修ではありません。
とはいえ、「これだけは伝えたい」というメッセージはあります。

これまで、レクチャーをして教えるということは通常やらないできたのですが、
最近、やはり言葉でも伝えないとダメだなと思うようになって…
手を変え品を変え、いろいろやってみているところです。

大塚裕子さん(以下ひろねー)
そうなんですね。

じん
最近やったレクチャーの例としては、ダイバーシティ&インクルージョン。

みんなそれぞれ自分の当たり前で判断してしまっているから
他の人に対して腹が立つ、ということがある。

他の人に対して腹が立つっていうのは、
相手がどういう思考をしているのか、
何を大切にしているのか、
何でそういうことを言ってるのか、
自分が理解していないから、そこに対して腹が立つわけで、
それは相手も一緒。

というわけで、違う当たり前が2つあることを認識するのがファーストステップ。

そして、違う当たり前を認めた上で、その中でどうやって第3の新しいルールを作っていくかを考える。

ダイバーシティ&インクルージョンは、
まずはお互いの当たり前が違うよね、という前提を受け入れ合った上で、
第3の道を見つけていく必要があるということです。

そうしないと、インクルージョンは起こらなくて、ダイバーシティ&セパレーション…あの人とは違うよね、じゃあいいや、違う人は知らない・・・ってことになってしまう。

そうではなく、違う人たちが一緒になって、新しい魅力や強みを生み出していかなくてはならない。

……というようなことをレクチャーでやっています。

僕からレクチャーで伝えると、その考えに引っ張られてしまう。
講師に対する依存が起こるんじゃないかという不安はあります。

でも、我々が正しいと思っていることをレクチャーで伝えつつ、
みなさんに話し合ってもらうということをやっています。

いかに依存が起こらないようにレクチャーをして、参加者に本音の対話をしてもらうか。
今、日々頑張っているところです。

ひろねー
なるほど・・・。そもそもチーム作りって、正解はないじゃないですか。

“違う当たり前がある”とレクチャーで教えられると、それが正解なのね、と考えて、“違う当たり前”を探してしまうということが起こったり、
それぞれの“当たり前”探しだけにフォーカスしてしまい、“違う当たり前”を認識できて良かったね、で終わってしまうということも起こりえる。

“正解”を掲げることで、学びが浅いものになってしまう怖さがありますね。

じん
伝わり方っていうのはこちらではコントロールできませんからね。
相手がどう受け取るか次第だから。

ひろねー
一人ひとりの受け止め方、感じ方を大切にしたいですね、難しいけど。

じん
(前回の対談で出てきた)サイエンス・カフェでも、
話し合いが起きないという問題がありましたね。

僕は対話をいかに起こすかという仕掛けが重要だと思っています。

例えば、僕のレクチャーでは、
レクチャーで伝えたことを種に対話をしてもらえるような前振りを入れます。

サイエンス・カフェも、それを種にいかに話してもらえるかっていうところが肝。
種をたくさんつくるようにしていく必要があります。
圧倒的な知識がある人がいるときに、どういう種が蒔けるのかは分かりませんが。

僕の場合は、「自分の経験したことはこうです」と、
一人ひとりが持っている固有の経験ベースで対話してもらうことが多いです。
自分の経験の話なので結構みなさん話し合ってくれますよ。

コミュニケーションの流れがたくさん起こるということと、かつ、
それが、依存にならないということ。難しいですが、これが大事ですね。

 

“正解”を伝えるジレンマ

じん
伝えないと伝わらない、分かってもらえない人や事がある。
でも、伝えてしまうと依存になる・・・というジレンマはあります。

ひろねー
たしかに。

じん
でもね、ジレンマにぶち当たって考えたんですよ。

相手を依存的にさせるかもしれない。
けれど、自分が伝えたいことは伝えたらいいんじゃないか、と。

自分が大切だと思うこと、自分が伝えたいことを、伝える。
それに対してみんなでちゃんと考えてもらったり、話し合ってもらえたら嬉しいし、
もし「それって違うよね」と指摘されても、自分では見えなかった視点で見ることができて、嬉しい。
最初はショックを受けるかもしれないけど。(笑)

ひろねー
そうなんですよね~。

伝えると依存になる。言っていることが“正解”ではないのに、やはり発言したものを“正解”と受け取られる。

組織づくりにおいては、“正解”と受け取られないように、普段の発言を注意しながら、フラットな対人関係づくりや、コミュニケーションデザインを日々地道にやっていくしかないしかないのではないかと思っています。

研修のように1回限りの場合は、それとはまた異なりますね。
どれくらいデザイン可能なのかな・・・難しいですね。あまり考えすぎずに、伝えるべきことは伝える、でもいいんですかね・・・。

じん
今どうして、レクチャーで伝えていくことを重視しているのかというと、
うちでやっているチームビルディングって、ものすごく良いものだと思うし
社会に伝え広まったら、社会全体がもっと良くなると思ってるんだけど、
実際は「チームビルディングってなんかよくわからない」という人も多いんです。

それで、「チームビルディングってこういうことだよ」
「こういうことが軸になるよ」「こういうことを考えてるんだよ」ということを
もっと言葉でわかりやすく、広く伝えたくて。

これまでやってきた体験学習的なやり方…例えば、ゆっくりと参加者の気づきを待つやり方とか、投げ掛けてモヤモヤさせるやり方…ではないアプローチもしていかないと、
チームビルディングをもっと広めていくことはできないな、と思ったんです。

ひろねー
“良い”こと・・・「これが多くの人に知られたらハッピーになるんじゃないか」と思うこと、自分はこれが大切だと思うことを伝えていくのは、ある種の押しつけになる可能性をはらんでいると思う。

押しつけにもなる要素が含まれると自覚した上で広めるなら、押しつけにはならないとは思いますが・・・。

じん
宗教の布教と似ているところがあるよね。

伝え広めようとしている人はものすごく良いものだと思っているし、
自分自身これを知って幸せになったし、
これが伝え広まったらみんなどんなに幸せになるだろう、と思って
広めようとするんだけど、

相手がどう感じているか、どう受け取っているかということを置きっ放しにして、
自分の“良い”だけを押し通そうとすると、
うまくいかないし、逆に相手から嫌われてしまう。

相手はどのようなフレームでものを見ているのか、とか
どういうときに相手はハッピーなのか、ということを
ちゃんと受け取りながら伝えないとね。

でもそれって、なかなか難しいんですよ。
なぜなら相手が受け取れないから。

「あなたが言っていることって、こういうことですよね」って受け取ってもらえると、
そこにコミュニケーションが起こる。

だけど、自分のことが受け入れられていない、と思うとその時点で反発するし、
いくら“良い”ものだとしても一方的な正義の押しつけになる…ということが起こりえる。

そういう難しさはありますが、
自分たちがやっているチームビルディングを良いものだと信じているし、布教し広めたい。

自分一人ではとても伝道できないから、
チームビルディングを分かる人を増やしていこうとか、
本質に立ち返るよりどころとなる本を作ろうとか、
もっともっと伝え広めるために、今いろいろ考えています。

ひろねー
宗教だと・・・洗脳のようになっていったときに、相手に拒否をする権利が無くなるじゃないですか。

重要なのは、自分はその考え方を良いものだと思っていたとしても、「あなたは採用しても採用しなくてもいいですよ」というスタンスでいること。

相手に選択権があることを担保した上で広めるということであれば、いいのかなという気がしています。

アカデミックな世界では、「こういう根拠から、こういうことが分かりました」という事実をベースとした情報発信や提案なので、判断や選択をするのは情報を受け取った人と考えるのが基本です。

ただ、今のAIブームなんかは、ちょっと宗教じみているところがありますね。どちらかというと、研究者よりも、研究者ではない人がAIブームを起こしている気がします。AIブームに関しては、あまりに加熱しすぎていて、研究者の方が気持ち悪がっているという側面もあります。

じん
なるほど。分かっていない人が分からないからこそ振り回されているんだね。

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