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第59回『逆風のダイバーシティ、アメリカで何が起きているのか?』

2025年06月17日

近年、アメリカ社会では、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の流れに大きな逆風が吹いています。かつて企業や教育機関を中心に積極的に推進されていたダイバーシティの取り組みが、2024年以降、特に政治の動きと連動するかたちで後退しつつあるのです。

数年前には、ブラック・ライブズ・マター運動をはじめとする社会運動が活発化し、「あらゆる人々を平等に扱うのは当然である」という認識が広まりました。その結果、外部機関を使って多様性を数値で測る取り組みが普及し、女性やマイノリティの役員登用を増やす施策などが多くの企業で進められました。しかしその反動ともいえる動きが、現在強まっています。

背景には「マイノリティばかり優遇されるのは不平等である」「逆差別的だ」との主張があります。たとえば「多様性スコアを上げるために、能力のある人が選ばれず、属性だけで登用されるのは不公平だ」という声が、一部の層からあがっています。元々多様性推進は白人男性ばかりが優遇されていた状態を是正するために始まりましたが、今は逆にそういった層の人たちの一部が、「自分たちの幸福やチャンスが不当に削られている」という被害意識を持っています。

このような声を受け、トランプ政権をはじめとする保守的な政治勢力は、DEIに関する制度や役職を縮小・廃止する方向に舵を切っています。企業に対しても、ダイバーシティ関連指標の使用中止などが働きかけられており、実際にそのような動きに従う企業も出てきています。

とはいえ、すべての企業がこの流れに乗っているわけではありません。多様性の重要性を本質的に理解している企業やリーダーたちは、制度の形を変えながらも「本当に意味のある多様性」を守ろうとしています。むしろこのような逆風の中で、「なぜ多様性が必要なのか」「どうすれば多様性が組織の力になるのか」といった問いが再確認される良い機会となっているとも言えます。

ダイバーシティとは、単に多様な属性を揃えることではありません。異なる視点を持つメンバー同士が協力し合い、これまでになかった発想を生み出し、複雑で未知の課題に挑むための基盤です。誰かの頭の中だけで完結する答えではなく、違いを掛け合わせることで生まれる創造力こそが、これからの社会を切り拓く力になるのです。

今、アメリカ社会が直面しているのは、「多様性とは何か」「それは誰のためのものなのか」を改めて問い直すタイミングなのかもしれません。逆風のなかにこそ、揺るぎない価値が試されていると言えるでしょう。短期的な感情論に流されず、多様性が本来持つ力を信じて取り組みを続ける姿勢が、これからの社会にとってますます重要になっていくのではないでしょうか。

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