第60回『ダイバーシティが機能しない?日本企業に欠けている視点とは』
2025年07月01日
日本でもダイバーシティ推進の重要性が叫ばれるようになってきました。特にグローバル企業では、外部機関の指標を用いて多様性の進捗を測定したり、管理職への女性登用を進めたりと、一定の取り組みが見られるようになっています。
しかし一方で、「ダイバーシティを推進すると、逆にチームのパフォーマンスが下がるのでは?」という懸念を抱く声も少なくありません。実際に多くの日本企業では、ダイバーシティをどのように組織の力として活かすのか?があいまいなまま「とにかく女性管理職を増やそう」などの表面的なアプローチに留まってしまっている企業も多いのが現状です。

このような状況にある背景には、日本独特の企業文化があります。「元々のメンバーでうまくやろう」という閉鎖的な風土が根強く残っており、違いを受け入れることそのものに抵抗感を持つ人も多く存在します。たとえば、未だに男女間での昇進や給与の格差が解消されておらず、「人として平等に扱う」という前提すら十分に共有されていないことも統計で明らかにされています。
また、「多様性を取り入れることでパフォーマンスが向上する」と聞いても、それがなぜなのか、どうすればそうなるのかをわからずに取り組んでいる場合がほとんどです。これは、あたかも「最新のパソコンを導入すれば業務効率が上がる」と言われても、使い方がわからなければまったく意味がないのと同じです。
実際、多様性を活かすためには、チーム内での対話や意思決定のプロセスにも大きな変化が求められます。たとえば、異なる意見が出たときに「A案かB案か」のように多様な選択肢から選ぼうという発想ではなく、対話でお互いの中途半端なアイデアを混ぜ合わせ、発展させて、C案やD案といった誰の頭にもなかった新たな選択肢を創出する必要があります。
いい案を出した人が「優れている」と評価するのではなく、チーム全員の場で案を進化させていくのです。
つまり、多様性は単なる「状態」ではなく、「つながり」こそが鍵なのです。違いは時に対立を生みますが、対話を重ねることでそれは新しい可能性にもなります。違いを活かす力とは、チーム全体で粘土をこねるように、じっくりと意見を混ぜ合わせ、新たな答えを創り出す力です。
日本企業がこれから本当にダイバーシティを活かしたいと考えるならば、「何のために取り組むのか」「どう使うのか」を一人ひとりが理解することが不可欠です。パフォーマンスを下げるどころか、多様性はうまく使えていない組織が多いだけに、正しく使えば素晴らしい強みになります。表面上の多様性推進だけではなく、違いを活かして進化できる組織作りを応援しています。