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第45回『介護とコミュニティづくり(6)日本流の介護、日本流のチームビルディング』

2016年12月15日

チームビルディングの話をしよう
2015年4月から始まった連載コラム「チームビルディングの話をしよう」では、代表河村がチームビルディングを切り口にさまざまなテーマでいろいろな人と話し合った内容をお届けいたします。

※今回の『介護とコミュニティづくり(6)日本流の介護、日本流のチームビルディング』は、
しゃくじいの庭」という小規模多機能・グループホームの運営に携わっていらっしゃる
安井英人さんとの対談です。

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の続きとなります。
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河村甚(写真右、以下 じん)
介護事業所ってなにか違った仕組みで儲けたらだめなんですか?

安井英人(写真左、以下 安井さん)
それは大丈夫ですよ。たとえば、野菜を売ったりとか(笑)。いや、うちのカレーの日の野菜マルシェは地域の方に場所を貸してるわけですが。それは冗談だけど、うちは社会福祉法人ではないので、社内に別の事業があって、そこにコミットする社員もいて、といったことももちろん全然問題ありません。実際に、うちは元々畳屋で、まだ扱ってますよ。

じん
僕は世の中給料低いけど社会にとって大事な仕事って、別事業で儲ければいいのではないかと思うんですよね。お役所頼みではなくて。たとえば、 保育園ならパパママ層への広告とか子供用のものの物販とか教育用事業の代理店とか。実際には色んな規制で難しいからやっていないのかもしれないけど。

この介護事業所でも、認知症の方とのコミュニケーションから学ばせてもらう研修プログラムで事業化できそう。こんな捉え方は良くないことだって言われるかもしれないけど、認知症の方から学べることがいっぱいある。ファシリテーター研修や企業のマネジャー研修でも有効だなと思います。

研修を仕事にしているから、ついそう考えてしまう。本業をやりながら、別ラインの事業ができるとすごくいいと思うんですよね。

安井さん
今後、こういう場で働く適性のある人たちを増やしていくのは、めちゃめちゃ重要だっていうのは思っています。そういう人たちがそこここにいる状態にしなくてはならないと思っています。そのためのそういう研修も……。

じん
やりましょうよ! それはぜんぜんできる。社会的にオーケーであればね。

安井さん
ご家族を含めた当事者にとって倫理的に考えなくてはならないことはいっぱいあるけど、そういうことを軸に据えた研修みたいなものが、じつは世の中に役に立つという考え方でセミナーみたいなものを作っていくのはアリかもしれないね。

認知症サポーター講座っていう一般向けの研修はあって、”オレンジリング”がもらえる。ただ、それは認知症についての知識を広めましょうという研修。でも、さっきのアイデアって、それとは違うじゃない? 「認知症のことを知りましょう」ということは共通の前提になっているけど、自分の暮らし、仕事、考え方に役立つことがいっぱい学べますよ、という意味で。

認知症の方を助けてあげなくてはならない対象としてみるのではなくて、認知症の方との関わりっていうのが、じつは世の中の関わりと同じ構造で、しかもいろんなことがシンボリックに見えるっていう切り口がいいと思います。

じん
「助けてあげましょう」というスタンスではないと思うんですよね。たとえば、アップウィズピープルの頃はいろんなところでいろんなボランティアをやりました。

安井さん
やったね。

じん
そういう時ってサポートする立場とは言いつつも、僕はそこから何かを得たい気持ちがあった。

さっきのアイデアの研修をやるとして、認知症の方に何かしてあげようというスタンスで来てほしくはないなと思うんです。学び取ろうと思って来てほしい。与えてあげるためではなく、そこからもらうために。相手に対するリスペクトもとても大事だし。可哀想な人たちを助けてあげるのではなく、自分たちがそこから何かを得るという気持ちでいられるといいし、もしかすると認知症の方も嬉しいかもしれない。

安井さん
そこは重大なポイントですね。つまり「尊厳」という言葉はよく出るわけですよ。それは絶対優先。でも、すごく抽象的な言葉だし、わかっていない介護職がいっぱいいる。言葉はわかってるっていうけど、具体的な行動が全然違ってるでしょということがあるわけですよ。

それが学び取ろうという姿勢で始まるコミュニケーションには、必ずリスペクトがあると思うんですよ。でも、支援しようという姿勢でいると、気づかないうちに上から目線になってしまう。具体的な行動のなかで如実に現れるんですよね。

たとえば、よかれと思ってだけど、便秘がちな人にみんなの前で「今日出た?」とか聞かれたら、とても嫌ですよね。言えばわかるんだけど、それをふっと忘れてしまうっていうのは、どこか自分の中でまず立ち位置が間違っているんだと思うんですね。人によっては「でも、聞かなきゃダメですよね」とか言い訳する人もいる。そんなこと言ってるんじゃない。

そんなことを含めて、効果のある研修をつくるのは、介護業界の中でも求められているかもしれない。それこそフランスの「ユマニチュード」という方法論を借りてこなくても。

ユマニチュードという手法には、いろんな方法論が書かれているわけですよ。たとえば、急に後ろから声をかけないとか、視線を合わせるとか、優しく触れるとかね。そんな技術論が書いてあるんですが、深層にあるのはラブだったりリスペクトだったり、そういうことなわけですね。

ユマニチュードは医療業界のほうから紹介されてきたんですね。ユマニチュードの実践者が病院に来たら認知症の方と最後はキスして別れた、なんて医者や看護師からすると「すごい!どうやったんですか?」となったわけです。でも、それを介護業界の人たちに見せたら「こんなこと前からやってますよ」という人もいる。

だけど、前からやってるんなら、それをちゃんと整理して共有するということを、日本の介護業界はやってきたんですか、と。あなたはできているかもしれないけど、隣の人はできているとは限らないよ。その時に「俺はできてる」っていくら言っても事業所として、社会としてはしょうがないよって。って言うか、あなたが本当にできているかどうかも誰がどうやって評価できてるのかなぁって。

で、「医者なんて対等だと言えるだけのプロフェッショナリティを持ちなさい」と僕はうちの職員には言っています。なんでもお医者さんの言うとおり、あるいは薬に頼るだけだったら、介護は何も変わらないと思うんです。

変えていくためには、さっき言ったコミュニケーションのところを根本から勉強しなきゃいけない。ユマニチュードも決して悪くないけど、日本的な目線での考え方や手法みたいなものもあるかなあと思ってるんです。

じん
ぜひぜひやってほしいなあ、そういうこと。

安井さん
ユマニチュードにあるような、認知症の方がダンスして最後はキスして別れるって日本的じゃないなあと。それは日本人には日常じゃなく、非日常。「それ外国人が来たからだよね」となってしまう。そんなこと、日本人が照れないで毎日やる?と思います。僕らならやりますけど(笑) もうちょっと和的なね……。

じん
そういうのって、何事においても必要だと思います。和というか、日本らしさというか。僕がチームビルディングでやろうとしているのも、まさにそういうところがあって、日本発のチームビルディングにできるかというか……。

僕が最初にチームビルディングとかファシリテーションとかを知ったのは、アメリカでした。自分の原点は、アメリカ的なチームビルディングなんだと思います。

日本でやっていると人がぜんぜん違うので、やり方が変わってきます。そこから本当に学ばせてもらっています。丁寧にやるとか、しっかり考えるといったことを扱うようになりました。

そんなチームビルディングジャパンでやってきたような、日本でのチームビルディングのやり方、考え方みたいなものは、今はまだまとまっていないけど、形にして外に出していったらすごく喜ばれるだろう、必要とされるだろうなと感じています。固めて出していきたいと考えています。まずはアジアへ。

安井さんの言っていたことは、本当にそう思います。海外と同じやり方だけではなく、ジャパンならではのやり方を確立して、もしかしたら輸出していけるのかもしれない。

安井さん
介護はどんどん海外に出ていっています。たとえば中国なんて、尋常じゃない速度で高齢化が進んでいるわけです。そんなときに介護の運営ノウハウ+介護ロボットの話とかが出てきます。介護ロボットも実用化が近づいています。

今の話でいうと、技術だけでなく思想性も紹介してあげることも意味があるはずだと思うんですね。同じような文化圏で、年配の方に対するリスペクトみたいなものが、おじいちゃんおばあちゃんたちと一緒にいると、なんかわかるんですよ。

自分は祖父母と一緒に居なかったから、そういう意識はあまり強くなかったんだけど、一緒にずっといると、湧いてくるリスペクトがあると思うんです。あり方とか、気遣いの仕方とかですね。女性が男性をたてている姿をみていたりすると、積み重ねていることに対する敬意も湧いてくる。

そんな感覚は、ちょっと欧米だとなかなかないかもなと思っています。アメリカで見た、おじいちゃんがワイワイ騒ぎながら孫と水鉄砲で遊んでいるのとか、あんなおじいちゃん、ちょっと日本にはいないなーと。あれはあれでかっこいいんだけど。

日本人のお年寄りとのコミュニケーションの仕方には、ある一定のマナー、作法があるわけじゃないですか。そこを押さえたケアの仕方とかコミュニケーションの仕方っていうのは、現場からのものというか、技術や理論の本みたいなのじゃなくて、現場に即したものというのもあり得るのではないか……。

じん
言葉にすると平べったいけど、気遣いなのかな。日本人だからこその相手に対する気遣いをもって人とコミュニケーションを取る。

たとえば「空気を読む」ことって、良くも悪くもあらわれてくるけど、察しようとする、つまり理解しようとすることって基本的にとても良いことだと思うんですね。

だけども、勝手に決めつけるのは良くないし、場を乱すことは悪だみたいにとなると良くないのかもしれないけど、場を理解しようとする姿勢とか、相手を理解しようとする姿勢は日本の良いカルチャーだと思います。

介護で相手に対する敬意をもって理解しようとするスタンスって、日本文化の中にある良さだと思います。チームビルディングもそうだなと思います。

自分がやっているチームビルディングと安井さんの介護と通じることがあるという話の展開がめちゃめちゃおもしろい。でも、きりがなくあれも聞きたい、話したいとなってしまいますので、この辺りで……。

安井さん
言いたいことをしゃべらせてもらって、とても楽しかったです。やらなきゃならないことが明確になってきました。ありがとうございました。

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